夜、ふと目を覚ましたら、カーテンの隙間から光が漏れていた。
あまりにそれがまぶしいものだったので、こんな夜更けに外でなにかあるのだろうかと不思議に思いながら、カーテンを開けた。そして、息を呑んだ。
それは月の光だった。でもただの光じゃない。満月の光。
青白く透き通った光は、今は人のいない石畳の通りと、明かりの消えた家々を優しく照らし、普段とは違う、静かで幻想的な街を作り出していた。
あまりの美しさに魅入ってしまい、わたしは窓の外をじっと見渡す。
すると、いないと思っていたはずの人の影が目に止まった。
小さな影だった。それも、ひとつだけしかない。
なにか考える前に、わたしは上着を羽織って外に出ていた。
影は通りの、ちょっと段差になったところに腰掛けて、月を見上げていた。
その影の正体に、すぐ思い当たった。
遠い遠い国からやってきたという、小さな旅人。名前は……なんといったか。
あまり人の来る街ではないから、彼が訪ねてきたときはすぐ噂になった。
直接話したことはない。けれど、あんな小さな子供がたった一人で旅をしているのには、なにか深い理由があるのだろう、と思っていた。
それきり考えることをやめていたから、深いことは知らない。
「こんばんは、おねえさん」
気がつくと、少年は肩越しにこちらを見ていた。
どうやら彼の後姿を見たまま、わたしは固まっていたらしい。
「こ、こんばんは」
うまく声が出せなかった。
なぜだろう、この少年を見ていると、胸が苦しい。
少年は幼いながら整った顔立ちをしていた。さらさら揺れる金髪と、ガラス細工みたいにきれいな青い瞳が、わたしの目をとらえて離さない。
でもなによりわたしが、この少年を――
「ねえ」
少年が言った。
「こんなに大きな満月だとさ、まるで落ちてきそうじゃない?」
わたしには、少年が冗談を言っているようには見えなかった。
口調こそ無邪気で奔放だけれど、表情は大人が秘密ごとを吐露するような、真摯で不敵な笑みだった。
分からない。
わたしには、この子のことが、よく分からない。
「ごめんね、へんなこと言って」
わたしは首を横に振った。
むしろ、答えてあげられなかったわたしが謝るべきだ。
そう思ってなにか言おうとしたとき、少年がまた言った。
「月ってさ、見てる国によって住んでるいきものが違うんだって」
その話は、聞いたことがある。
国によって月の模様が違って見えるので、月に関係する神話や御伽噺なんかもその国によって色々あるらしい。
「おねえさんは、何が住んでる?」
少しおかしな聞き方だな、とちらっと思ったけれど、そのことには触れず、わたしはこの国で見える月の模様を話した。
「違う、違う。おねえさんの見え方が聞きたいんだ」
わたしの見え方。
「国」や「御伽噺」ではなく、「わたし」の。
わたしは月を見上げた。
真ん丸の月。そこに、うっすら浮かび上がる模様。
あの模様は、わたしには。
わたしは思ったまま、見たままを少年に伝えた。
それを聞いた少年は、少し悲しそうに笑っていた。
あなたはきっと 幸せな人