「あああ~~なんでなの~~~~」
机に突っ伏して足をばたつかせる私は、先程三回目の失恋を遂げたばかりである。
「しゃあないやん。振られたもんは」
そんな私を見向きもせず涼しい顔で本を読むのは、クラスメイトで一年からの友達である忍足侑士。長い付き合いの友達がこんなに傷ついているのにへーぜんとしてやがるその神経、さすが心を閉ざす男である。
「年一のペースでノロケと愚痴交互に聞かされたら誰でもそうなるで」
「おまけに読心術も心得ているときたもんだ」
「そら青学のほうや」
「あーそんなことはどうでもいいんですぅー傷ついているんだからちょっとくらい話聞いて欲しいんですぅー慰めて欲しいんですぅー」
「ですですうっさいわ。聞いとるやんか」
「聞いてない!!相槌が適当!!心じゃなくて本を閉じろ!!」
「この子ホンマめんどいわー」
忍足はため息をつきながら渋々本を閉じた。それから片手で頬杖をつき、私を見下ろす。何だか、ものすごく冷たい目に見えて、ぷいと顔を逸らした。
「なんやねん。自分が話聞けー言うたんちゃうん」
「……もーいい」
「勝手なやっちゃな」
「……彼氏の前ではいい子だし」
わがままだって言わないし、彼氏の意見には従う。苦手な料理だってするし一人の時間も尊重してあげる。自分で言うのもアレだけど、かなり献身的だ。それなのに、別れ話を切り出すのはいつだって向こうから。何が悪いとか、もう考えるのも無駄な気がしてきた。
きっと私は一生誰にも愛されない、なんて取り留めもない言葉が浮かんで思わず目頭が熱くなった。
「あんなぁ」
返事はしなかった。声が震えているのが分かっちゃうから。だけど忍足は続ける。
「好きなんは分かるけど、それで自分抑え込んで無理して、結果嫌われるんなら意味ないで」
さすが好きな本と映画が純愛物で大変おモテになる忍足侑士は言うことが違いますね。ぐっさぐっさ刺さり過ぎて、本当に涙出た。
出た涙が溢れて、ぽろっと机に落ちた時。
「まあ、見る目なかったんやな。その男も」
出た涙が引っ込んだ。びっくりして振り向くと、なぜか至近距離に忍足の顔。
「そんなことせんでも、未登録名前はかわええって言わな」
ゆるゆる頬を撫でる忍足との距離がゼロになるまで、あと3秒。