ワンルームサバイバル

城下町の家賃というのはとても高い。
だからわたしのように、女性ひとりが一つの部屋を借りているというのは珍しい。

「だから一緒に暮らそうって言ってるのに」

「その話は何度も断ってるはずなんだけど?リンク」

わたしは隣のリンクに睨みをきかせる。
テルマさんの酒場で気持ちよくお酒を飲んでいるっていうのに、そういう面倒臭い話はやめてもらえないかな。

リンクと出会ったのは、いつ頃だったろうか。
ずいぶん前のような気もするし、最近のような感じもする。
とにかく、何時の間にかリンクが城下町に来ているときは、こうして二人で飲むのがお決まりのようになって。
いつしかリンクが半ばプロポーズのようなことを言うようになった。

「大体、あんた滅多に帰ってこないじゃない。それじゃ一人で住んでるのと変わらないわ」

「待つ楽しみもあると思わないか?」

「待たせるほうが言うセリフ?」

それにわたしは一人で気楽に過ごすほうが好きなの。
他人に合わせるなんてまっぴらごめんよ。
そういうと、リンクは笑って、

「未登録名前のそういうところが好きなんだよなあ」

「あんたも相当変わってるわね」

自分で言うのもなんだけどさ。
こんな変な女好きになるのリンクくらいだと思うわ。
黙ってればいい男なのに性格に難ありなんて勿体無い。
ああでも顔だけで寄ってくる女の子はいるわよね。羨ましいことで!
べつにわたしがいき遅れてるわけじゃないんだから。
そう、リンクがいつもそばにいるから男どもも敬遠してるんだわそうに違いない。
わたしに彼氏が出来ないのはリンクのせいよ。

「ちょっと未登録名前、飲み過ぎじゃないか?」

四杯目のグラスを空けたところで、リンクがこちらを覗き込む。
べつに飲み過ぎてなんかないわよ、いつもよりちょっと多いだけじゃない。
反論しようとして、テルマさんに先を越された。

「そうだよ未登録名前、いつもの倍は飲んでるじゃないか。今日はもうその辺にしときな」

「えーあと一杯だけえ」

「ほら呂律だって回ってないじゃないか。リンク、悪いけど未登録名前を家まで送ってやってちょうだい」

「だってさ、未登録名前?」

「うー……」

まだまだ飲み足りないのに。
まあ、でもテルマさんがそう言うなら仕方ない。
お代を置いて立ち上がろうとしたが、バランスを崩した。
転びそうになったところで、リンクが支えた。

「うわ、っと。やっぱり飲み過ぎだぞ未登録名前」

「うっさーい……」

それというのもあんたのせいなんだからね、と言おうとしたけど、口が上手く回らなかった。
かわりに出るのはうめき声。
そんなわたしを見て、リンクは苦笑し、わたしの腕を自分の肩に回した。
ああ予想以上に酔ってるのかも。
だってリンクに触られても怒りが湧いてこないもの。
今は全体重をリンクに預けたいくらい、身体が重い。

「じゃ、テルマさんまた」

「ああ、また来とくれ」

二人の会話を最後に、わたしの意識は途切れてしまった。

「ついたぞ未登録名前」

ゆすられて、目を覚ました。
そこはわたしの部屋の前だった。
そういえばいつだったかリンクに住んでる場所聞かれたっけね。
覚えてるなんて記憶力いいんだなあ……

「こら寝るな。鍵あけろって」

「うーん……」

ああそうか、家に着いたんだっけ。
鍵……は、どこにやったかな。
ポケットの中を探って、鍵を探す。
鍵を見つけると、のそのそとした動きで鍵を開けてドアを開く。

「さすがに中まで入って行けないから。立てるか?」

「……いーわよ入って」

今すごく自分の足で歩きたくない。
するとリンクのため息が聞こえて、引きずられるように部屋に入った。

リンクはベッドにわたしをおろした。
ひどくのどが渇いていたので、リンクに水を頼むと、嫌な顔ひとつせず用意してくれた。
一気に飲み干すと、少し頭がすっきりした。
……あれ、落ち着いたら今のこの状況、すごく恥ずかしくなってきた。

「大丈夫か?」

「あ、うん。ありがとね」

返事にも、すこし戸惑ってしまう。

「じゃあ、俺は宿屋に戻るから」

「あ、……」

その言葉を聞いたとき、なぜか「寂しい」と思う自分がいて。
背を向けて歩き出したリンクを追いかけようとして。

「「わあっ!!」」

勢いあまって転び、リンクを押し倒してしまった。
すぐにどこうとした、けど。

「……未登録名前?」

間近でみると本当にきれいな顔をしてる。
ほらふたつの瞳なんて青空みたいに澄んでるじゃない。
旅してるっていうのにやわらかそうな髪してるし。
肌だってこんなにすべすべしてて。

やっぱりわたし、まだ酔ってるのかな。
リンクが、すごく愛おしく感じるなんて。

「……ねえ、リンク」

「なに?」

「キスしよっか」

Title:セラニポージ