「お父様ですか?」
店員さんのひと言に、私はぽかんと口を開けて隣の日本号はぶふっと小さく吹き出した。
現代遠征――といえば聞こえのいい、ただの嗜好品の買い出し。お気に入りの紅茶を買いに専門店に来ただけだ。それでも審神者としてお伴は付けなければならないので、たまたま今日の近侍だった日本号に頼んで付いてきてもらったのだが、それは間違いだったのかもしれない。
方や190cmを超える美丈夫と、方や身長も顔面もギリ平均としかいえない女。そんなふたりが並べばそういった感想が出るのも致し方ない……と、頭では分かっているものの。
私は密かに日本号を慕っている。ぶっきらぼうで素っ気ない、ふりをして、その実懐に入れた相手にはどこまでも優しく甘いこの神様に、いつしか私はすっかり心奪われていた。だからこの外出だって、いつもよりおしゃれに気を使って、立ち振る舞いも彼に恥じないようしてきたつもりだった。
だけど、やっぱり、私なんかじゃ日本号の隣に相応しくないんだ。
何も言えない私に、店員さんは慌てたように「すみません」と告げる。困らせるつもりはなかったので私もなんと答えればいいか迷っていると、日本号が笑いながら私の肩をぽんと叩いた。
「悪ぃが親子じゃねえんだ。……家族になる予定ではあるがな」
「は!?」
「あらそうでしたか!」
「いや違っ……!!」
「こいつ照れ性でなぁ。口説くのに苦労したもんだ」
「うふふ、可愛らしい方なんですね」
「違うってば!」
私の動揺をよそに、店員さんはニコニコと日本号の作り話を聞き、ペアのティーカップを勧めてきた。
「こちら人気の品ですよ」
「じゃあひと組もらおうかね」
「かしこまりました。包装はいかがしますか?」
「おう。頼む」
「分かりました。他にご入用がありましたらどうぞ見ていってくださいね」
そう言って、ティーカップの箱を持った店員さんが奥に引っ込んでいってしまう。
「ちょ、なに勝手に……!」
「あー?ついでにいいだろ」
「ついでって、私は紅茶買いに来ただけだしそもそも日本号とはそういうんじゃないし!!」
「あんたがいつも飲んでるヤツはコレだろ?」
と、日本号はディスプレイされた茶葉の一つを指差す。確かにそれは私のお気に入りの銘柄だった。
「なんで知って……」
日本号が興味あるのはお酒で、だから紅茶の話なんてしたことなかったのに。
呆然としていると、頭の上で日本号の喉がくつくつと鳴った。
「好きな女の好きなモンは、気になるだろ?」
そう言って、私のお気に入りの茶葉の缶を掲げながら、ほのかに色づいた瞳で私を見つめていた。