右と左を駆ける熱

 仮面から覗く唯一の瞳は、彩度の高い黄色。全身は白と黒で構成されているからか、そこだけが毒々しいまでに鮮やかな色をしているのが、たまらなく美しいと思った。
 手を伸ばして、途中で止めた。がちゃりと鳴った手錠と鉄格子が、彼から温度を貰うことを阻んだのだ。

「無意味なことをするな」

 くぐもった、冷たい声がする。

「貴様はもうすぐあの世逝きだ。あの忌々しい救世主どもを殺せば捕虜の意味を成さない。奴らが引き裂かれるのをそこで見せてやろう。……必ず、貴様の恐怖を抉り出してやる」

 冷たい声に苛立ちという熱が混じった。
 その声に、わたしの背筋にぞわぞわとしたものが走り抜ける。顔中に熱が集まり、自然と涙腺が緩んだ。

「わたし、その瞬間が待ち遠しいんだよ」

 インフィニットは何も言わない。感情の消えた瞳を私に向けているだけだ。

「あなたの傷がほしいの。傷をちょうだい」

「……俺の傷は、俺だけのものだ」

 何度繰り返したか分からない言葉に、返ってくるのはやはり何度繰り返したか分からない言葉だった。

(それでもあなたは声をくれる)