君にしか言わない

わたしは2杯目の紅茶を飲み終えて、はあ、とため息をついた。
カフェの客もすでに少なくなっていて、テラスにいるのはもうわたしだけ。
シャドウとの待ち合わせの時間は、1時間ほど前になる。
もしかしたら仕事が長引くかもしれない、と聞いてはいた。その時は連絡するとも。
けれど、テーブルに置かれた携帯はうんともすんともいわない。何回メールの問い合わせをしたのかも分からない。
怒るというより、さびしい気持ちのほうが強かった。
もしかしたら忘れられてるのかな、とか、連絡する暇もないくらい忙しい仕事なのかな、とか、色々考えてると、やはり何度ついたか分からないため息が、また出てきてしまう。

「ため息つくと、幸せが逃げるっていうぜ」

「え?……ソニック!」

「Hi」

いつの間にか、ソニックがわたしの正面に座っていた。

「その様子だと、シャドウと待ち合わせしててアイツが遅れてるってトコか?」

「ご明察。さすがだね」

言い当てられてしまったら、苦笑せざるをえない。
するとソニックは、やれやれといったふうに手を広げて。

「こんな一途な彼女がいるってのに、シャドウのヤツはなにしてんだか」

「仕方ないよ。それに、会う約束してくれただけでも嬉しいし」

「ホント、一途だねえ。オレだったら絶対、ほっとかないぜ」

「えーほんとにー?」

「ああ!会いたいって言われれば、すぐに駆けつけるさ」

「あはは、ありがとー」

もちろん、ソニックが冗談で言ってるのは分かった。
シャドウを待つわたしにつきあってくれてるのも。
その気遣いが、とても嬉しい。

「……人の女に手を出すとは、いい度胸だな」

だけどそんな冗談も通じない人がいた。

「シャドウ!お、おんなって」

突然の登場にも驚いたけど、なによりその……発言にも驚いた。

「よっ、遅かったな。あとちょっとでオレのもんになるところだったのにな」

「ソニックまで何言ってるの!」

「殺すぞ貴様」

「Scary! See you later~」

「二度と会うか!」

走り去るソニックに怒号をぶつけたあと、シャドウはわたしのほうに向き直った。

「すまない、立て込んでいて連絡ができなかった」

「ううん。いいよ。こうして会えたし」

この後予定してたことはこなせそうにないけど、顔が見られただけでもわたしは満足だ。
でもシャドウは、なんだか不満そう。
と。

「シャドウ?」

わたしの手を、ぎゅっと握り締めてきた。

「冗談でも……僕は許しがたい」

「それってやきもち?」

「……」

あ、うつむいちゃった。
でもそうなんだろうな。

「あのね、シャドウ」

「……」

「わたしは、シャドウが大好きなんだよ」

「な」

顔を上げたシャドウは赤い顔をしていて。
嬉しくなったわたしは、手を握り返して微笑んだ。