嘘と本当
日が少し傾いて、影が少しだけ長くなったころ。
すっかりおなじみになった公園に、リンクくんがいる。
わたしは嬉しくなって彼に駆け寄った。
「こんにちは!リンクくん」
「未登録名前。こんにちは」
にこりと微笑むリンクくんは、寂しそうじゃなかった。
やっぱり誰かと一緒にいたいのかな。
それが、わたしとなら、いいな。
「あのね。今日はとっても大切なことを伝えにきたの!」
「なに?」
わたしは大きく息を吸って、吐いて、そうして、言葉にした。
「わたし、リンクくんのことが、好き」
「……未登録名前、入るわよ」
扉の向こうからお母さんの声がして、それから部屋の扉が開く音がした。
わたしは布団に包まっていたので、よくは聞こえなかったけど。
足音が近づいてきて、ベッドがきしんだ。ベッドにお母さんが座ったようだった。
「ふられちゃったのね」
「……うん」
声はかすれていた。
涙を流しすぎて、目が痛かった。
「彼は、なんて言ってたの?」
できれば、答えたくなかった。
その時のことを思い出したくなかった。
でも、吐き出してらくになりたい気持ちもあったから、ちょっとずつ、言葉にした。
「わたしが、好き、って、言ったらね。リンクくん、すごく驚いて」
「うん」
「それから、また、寂しそうな顔になって」
「うん」
「僕は未登録名前のこと、好きじゃ、ない、って」
「……うん」
「わたし、リンクくんに、嫌われてたんだ。ずっと、それに、気づかなくって。わたし、わたし」
思い出したら、やっぱり涙が溢れてきて、わたしはまたひっくひっくと泣き始めた。
どうして。どうしてだろう。
わたし、リンクくんに嫌われるようなこと、したのかなあ。
嫌われてたのに、嫌ってたのに、付き合ってくれてただけなんだ。
わたしが一人でうかれてただけなんだ。
ばかみたいに。
「あのね、未登録名前」
その時、お母さんの優しい声が降ってきた。
「リンクくんは、嘘をついているわ」
「え……?」
わたしはちょっとだけ、布団から顔を出した。
「リンクくんは、きっと優しい子なのね。未登録名前が傷つかないように、わざとそう言ったんだわ」
「どう、して?」
「リンクくんは、いずれこの町を出て行ってしまうでしょう」
「あ……」
そっか。リンクくんは、旅をしている。
旅の途中で、この町に立ち寄っただけ。
いつか出て行かなきゃならない。
リンクくんと一緒にいるのが楽しくて、当たり前みたいになってたから、忘れていた。
「だからね、未登録名前。本当のことを言ってしまったら、あなたに未練が残るから」
「みれん、ってなに?」
「リンクくんのことを忘れられなくなっちゃうってこと。リンクくんは、未登録名前と一緒にいられないから、自分のことは忘れて欲しいって、そういう意味で好きじゃないって言ったんだと思うわ」
ずっと一緒にはいられない。
わたしの胸に重くのしかかった。
けれど、けれど。
「わたし、リンクくんのこと好きだよ。それっていけないことだったの?」
一緒にいられないのなら、好きになっちゃいけなかったの?
わたしがそう言うと、お母さんは少しだけ唸った。
「うーん……いけない、ってことはないと思うわ。未登録名前は、リンクくんと一緒にいられなくても、好きでいられる?」
「……わかん、ない」
正直にそう答えた。
だって、未来は分からないものだから。
今は、ずっと続かないから。
この先わたしがどういう気持ちになっていくかなんて、今のわたしには分からない。
リンクくんのこと好きなのに、ずっと好きでいられる自信がない。
そんな自分が恥ずかしくなった。
けれどお母さんは、笑っていた。
「それでいいのよ」
「え?」
「大切なのは、今なんだから。今の自分の気持ちを大事にしなさい」
悩むのはその後でいいのよ、とお母さんはわたしの頭を撫でて、部屋から出て行った。
今の、自分の、気持ち。
わたしは、わたしの気持ちは。
わたしはベッドから跳ね起きて、走り出していた。