執着の的ということ

「やあ、未登録名前」

 儀式のない時間。何気なく訪れたコールドウィンドファームの丘の上で寝そべっていると、不意に覗き込んできたその顔に目を見張る。顔、というより、ふざけたマスク、が正しい。

「……付けてたの?お得意の付け回し?」

 体を起こして嫌味たっぷりに言うと、ふざけたマスク――ゴーストフェイスはいいや?とさして意に介さず答えた。

「君が行きそうな場所なら分かるからね。ただの先回り」

「うわそれも気持ち悪い」

「ひどいなぁ」

 全然そう思ってなさそうな声音で、ゴーストフェイスはマスクの奥でくつくつと笑いながら、当然のように隣に座った。
 こいつはいつもそうだ。儀式で出会うとしつこく私を付け狙い、そうでない時もこうしてわざわざ探しに来る。あまり考えたくないが、彼にとって私は「お気に入り」なのだろう。だから行き先を悟られないようにあちこち歩き回っているというのに。

「そう邪険にしないでよ、俺はただ未登録名前に会いたいだけなんだからさ」

「嘘つけ殺したいだけのくせに」

 こいつが相手を執拗に調べ上げ、徹底して付け回すのは完璧な殺人を実行するためだと聞いている。実際、儀式で出会うとその観察力で立て続けに読まれて、ほぼ毎回処刑される。
 こいつから逃れられない。その理由に、殺したい以外何があるというのか。

「君は勘違いしているね」

 それはあまりにもさらりとした口調だった。

「殺すのは手段であり目的じゃない。目的はあくまで、君を追うこと……いや、」

 ゴーストフェイスがこちらを向く。ふざけたマスクからはなんの感情も読み取れない。でも、なぜか、今の私には伝わる気がした。

「君に執着すること自体が目的になってるのかも」

「……肩に気をつけなよ」

「あ、いいねそれ。次の見出し。“彼女の決死の一撃も虚しく……”」

「本当に腹立つな!」

 それでもゴーストフェイスに隣を許してしまっているあたり、私もとっくに絆されているのかもしれない。

(そしてきっと、彼にはそんなこともお見通しなんだ)