辺りが赤に染まっていた。
比喩ではなく、真っ赤な炎が景色を埋めていた。
人がたくさん倒れていた。ぴくりとも動かなかった。
その奥で、一人の女の子が泣いていた。
「どうして、どうして、」と繰り返していた。
ここはどこ、と思った瞬間に、見覚えがあることに気がついた。
長く伸びる階段、石造りの祭壇と、あれは、彼が守っている――
「起きたか」
寝そべったわたしの隣に、ナックルズが座っていた。
起き上がって周りを見渡すと、赤を通り越して夜にさしかかっていた。
ぼんやりした頭で思い返せば、お昼過ぎにエンジェルアイランドに遊びに来て、でもナックルズがいなかったから、祭壇のところで待っていたんだった。それでいつの間にか寝てしまったみたいだ。
それにしても……。
あれは夢だったんだろうか。けど、あの場所は、
「どうしたんだよ」
ナックルズが不機嫌そうにわたしを見た。わたしには、これは心配してくれてるからこういうふうになるんだと知っている。彼は少々不器用なのだ。
彼にあまり心配をかけたくないと思い、口を開いた。
「あのね、夢、みたんだけど」
「どんなだ?」
「場所が、ここと似てた。マスターエメラルドもあったよ。でも、知らない女の子がいて、泣いてて」
そう言ったとたん、彼の表情が曇った。
目つきが険しくなったので、わたしは思わず話すのをやめていた。
彼のアメジスト色の瞳が、かなたの空に向けられた。
「ただの夢だ。忘れとけ」
優しい声。
だけど、悲しそうでもあった。
わたしは、なんて言えばいいのか、分からなくなった。
ナックルズのこんな表情は初めて見るし、夢の意味も分からないので、少し、怖くなった。
「お、おい。何泣いてるんだよ」
あれ、おかしいな。なんでわたしが泣いてるんだろう。
けれど目の奥から溢れてくる涙は止まらなくて、そのうち顔を手で覆った。
しゃくりあげていたら、ナックルズの手が、頭にのせられた。
「泣くなよ」
短くて、ぶっきらぼうな言葉。でも、彼らしい言葉。
それに少し安心して、わたしは頷いた。
ナックルズはわたしが泣きやむまで、ずっと頭を撫でていてくれた。
(お前は知らなくていい。俺の……俺たちの罪までは)