失墜のロトス

「なんだ、それ」

「蓮の種子」

ロータス?」

「そう」

マスターエメラルドの祭壇、その周りには囲むように水が流れている。
昔その水辺にしか暮らせない生き物がいたと聞くぐらいだから、植物が育つくらいにはきれいだろうとは思うが。

「勝手に植えんなよ」

ここは別にお前の庭でもなんでもない。むしろ俺の庭といっていいくらいだ。
なのにこいつは勝手に、種子をあるだけ蒔いている。

「いいじゃん別に。きれいだよ蓮」

「そういう問題じゃねえ」

「ここが蓮でいっぱいになったらさあ、」

「聞けよ」

「そしたら、またきっとわたしに会えるよ」

「どういう……」

意味だ、と尋ねかけて、俺は気がつかなくていいことに気づいてしまった。
また会える。
そうだ、こいつは、もう。

「仏教だとさ、生まれ変わるとき蓮の上に生まれるらしいよ」

「……お前仏教徒なのかよ」

「違うけど。でも、本当にそうなら信じたいなあと」

死んだ後のことなんて誰にもわかりゃしないんだから、信じようがない。
だが俺には、それを口にすることはできなかった。
そうあってほしいと、願ってしまいたくなるような出来事が、目の前にあるからだ。

「生まれ変わったらエンジェルアイランド出身かあ、悪くないねえ」

鼻歌まじりに、なおも彼女は蓮の種子を蒔き続けた。

(俺には、楽園の種子には、今も到底見えないでいる)