寂夜

明かりを消す。
窓から差し込む月の光だけが、わたしの部屋をてらした。
冷たい布団に潜り込み、体をぎゅっと丸める。

「おやすみなさい」

返ってくる言葉は、ないけれど。
今はいない同居人に向けて。
彼、リンクは、今どうしてるだろうか。
月明かりの下で、眠っているだろうか。
わたしのこと考えてくれてるかな。わたしみたいに。
そうだったら嬉しいな、とちょっと微笑んで、目を閉じる。
まだ布団、冷たいや。こんなときリンクがいてくれたら、あっという間に温まるのに。
リンク。
さびしいよ。
わたし、あなたが無事でいればいいって言ったけど。
それだけじゃ、やっぱり足りない。
閉じた瞳から、ぽろっと涙がこぼれて、枕をぬらした。

その時、かすかに扉の開く音がして。

「っわ!?」

誰かがわたしの布団に入り込んできた。
玄関にはちゃんと鍵をかけた。
合鍵を持っているのは、一人しかいない。

「リンク……!?」

「ただいま、未登録名前」

ぎゅっとわたしを抱きしめるリンク。
なんで、どうしてここに。旅は、まだ終わってないよ。

「近くに寄ったから、会いたくなって。寝てるところ悪いとは思ったけど」

「そんなことない。会えて嬉しいよ」

ふにゃ、と顔がゆるんだ。
ああ今わたし、最高に幸せだ。

「……未登録名前。涙のあとがある」

不意に彼の顔が怪訝そうなものに変わり、指でわたしの目じりを撫でた。
そっか。さっきまでわたし、泣いてたんだ。
リンクに心配かけたくない。

「た、ただのあくび」

「嘘。目だって赤い」

「何度もした、から……」

「未登録名前」

あ、ちょっと怒ってる。
わたしは観念して、本当のことを言った。

「夜、一人で寝るときは……寂しくて、たまに涙がでるの。あ、でもちょっとだけだから!リンクが心配するほどのことじゃ」

「ごめんな」

わたしの言葉はさえぎられ、代わりに彼の辛そうな声に消される。
そんな、謝ることじゃないよ。
わたしが待つって決めたんだから、リンクは、そんな顔しないで。

「ごめんな……」

言いながら、リンクはわたしの涙のあとを追うようにキスをする。
優しい優しい口付けに、また涙がでそうになった。
でもだめ。
リンクの前では笑顔でいるって決めたんだから。

「わたしは大丈夫だから。リンクは、自分のすべきことをして」

「未登録名前……」

「今日はリンクがいてくれるし、寂しくないよ」

にこ、と微笑む。

「……明日になったら、また行かなきゃいけない」

「わかってる」

「また、未登録名前を泣かせてしまうかもしれない」

「耐えられるよ、リンクのこと信じてるから」

「ありがとう……」

リンクの顔が迫る。
わたしは目を閉じて、あたたかな抱擁と優しいキスを一身に感じた。