悲哀の鐘は鳴り止まぬ

 ぐちゃ、と錆びた鉄が体を突き抜ける。痛みに顔を歪める暇もなく、振り下ろされた蜘蛛の脚に必死に抵抗する。どうやら私が最後の生存者だったらしく、目の前のローブ姿の男はもがき続ける私をじっと見つめていた。
 何回目かすら忘れるほどに過ごした霧の森。私がこうしてフックに吊られるのもまた何度目だろう。

「また、負けちゃったなぁ」

 ローブの男――レイスは何の反応もしない。ただいつものように首を斜めに立っているだけだ。
 蜘蛛の脚が俄かに強まる。もがいていられるのもあと何十秒か。それでも私は言わなければいけない。喉からこみ上げる鉄臭さを堪えて、私はようやくその言葉を口にした。

「愛してる」

 レイスが顔を動かした。斜めだった顔は真正面を向いて、どこかぼう然とした雰囲気でいる。私がしたことで初めてなにか動揺した気がした。優越感を覚えて、もがくのをやめようかと言うところですっとレイスが動いた。からんと足元で鐘が鳴る。戸惑っているとレイスの手が私の頬に触れた。ただ触れただけの、かさかさの手。ちっとも温かくなくて、ひやりとした棒切れのような感触。それなのに、私には今まで触れてきたどの手よりも柔らかく感じた。

「ごめん、」

 自然と口をついていた。何に対してなのか私にも分からない。だけどその手が、とても悲しそうで、辛そうで、どうしたって言わずにはいられなかった。
 蜘蛛の脚が腹部に突き刺さる。黒くなる視界の端でレイスがなにか言おうとするように一歩踏み出すのを見た気がした。
 次、会うときは、もしかしたら……なんて想像してしまうくらいに、私の感覚はとっくに麻痺しているのだと思う。

(きっとどうあがいても、この森で変わるものなどありはしないのに)

–診断メーカー「愛してると言われたら」より