この間から、ここ雲の上と地上とが繋がったらしい。
リンクっていう男の子がカケラあわせをしたから、埋れていた秘密の道が開放されたようだ。
雲の上でしか暮らしたことなかったから、地上がどんな世界なのか見てみたい。
どんな世界なのかな。風の噂でしか聞いたことないから想像しかできない。
土ってなんだろう。雲とどう違うのかな。風は吹いてるのかな。
風があるなら、空を飛んでみたいな。風の民は風とともだちだから、風さえあれば空を飛べるんだ。
ああその男の子が来たときに聞けばよかったなあ。でもその時、わたしは用事でいなかったし。
次いつ来るかわからないし……どうしたものかな。
「……そうだ!」
なら自分から行けばいい。
好奇心は持て余すものじゃなく、満たすものだよ。
自分で満たせに行けばいいじゃないか。
なんだ、簡単なことだ。
まあ、あんまり地上と関わるとよくないって言われてるけど。
風の民だってバレなければ、大丈夫だよね?
わたしは家の中の、地上との道を通って、地上に降り立った。
「わ、あ……!」
初めて見る地上は、とても美しかった。
まず、色が違う。雲じゃない「地面」は緑色をしていて、立ち並ぶ「木」も深い緑。
それに風のにおいも少し違う。なんていうか、これが「土」のにおいなのかな。
もっと色々みたい。そうだ、町に行ってみよう。お城っていうのも見てみたい。風の宮殿とどう違うのかな。でも今は大変なことになってるみたいだから、見られるかなあ。
とりあえず行ってみようということで、わたしは風を捕まえてふわりと空を飛ぶ。
「あ」
「え?」
わわわ!どうして男の子が!さっきまで誰もいないと思ったのに!
ど、どうしよう。飛んでるところなんて見られたら、しかられちゃうよ!
わたしが慌てふためいていると、男の子はさして驚いたふうでもなく、
「きみって、風の民なの?」
単純に疑問をぶつけた、という感じで聞いてきた。
うーん、どうしよう……。正直に答えてもいいのかなあ。
わたしが迷っていると、男の子はにこりと笑った。
「僕はリンク。雲の上と地上を繋いだのは、僕なんだ」
なんだ、そうだったんだ。
リンクくんになら話しても大丈夫かな。
わたしは地上に降りる。
「えっと、はじめまして。わたしは未登録名前」
「未登録名前だね。よろしく」
「驚いたぞ!地上に風の民がいるとはのう!」
わ!帽子がしゃべった!?
リンクくんのかぶっている緑の帽子から顔がでてきて、長いくちばしで喋りだした。
目を見張っていると、リンクくんが帽子を見上げながら、
「エゼロ、急に出てきたから未登録名前が驚いてるよ」
「む、すまんのう。ワシはエゼロじゃ。わけあってこんな形になっとるが、一応ピッコルなんじゃよ」
「そ、そうなんだ」
ああ驚いた。でも、見慣れるとちょっとかわいいかも。
「ねえ、どうして地上に?」
リンクくんが尋ねる。
「一度でいいから見てみたかったの。あと、地上の風で空を飛んでみたかったんだ」
「そっか、風の民は空を飛べるんだよね。いいなあー」
「じゃあ、一緒に飛んでみる?」
「できるの?」
「手を繋げばできるよ」
言ってから、はっと気がついた。
手を繋ぐってことは、リンクくんに触れるということで。
わたしはちょっと恥ずかしくなって、視線を泳がせてしまう。
でもそんなわたしにリンクくんは気づかないで、笑顔を見せる。
「ありがとう!僕も空を飛んでみたかったんだ!」
そんなリンクくんとは正反対に、
「ワシは地上でまっとるよ……高いところは苦手なんじゃ」
「エゼロは臆病だなあ」
「うるさいわい!」
ふふ、二人とも仲がいいんだなあ。
そんな光景を見て、少し落ち着いた。
リンクくんは帽子(エゼロさん)をぬいで、
「行こう!」
「うん!」
わたしはリンクくんの手を取って、空にあがった。
地上の光景が遠くなる。
風は強く吹いていて、わたしとリンクくんを包み込む。
「すごいや未登録名前!地上があんなに小さいよ」
興奮したように、リンクくんがはしゃぐ。
わたしも、初めて見る空からの地上の光景に、興奮していた。
「地上って、きれいなところだね。緑がいっぱいで」
「……今は、魔物が多いんだけどね」
リンクくんは、少し悲しそうに言った。
そっか。今はグフーという魔人が魔物を解き放ってしまったんだ。
「でも、必ず元のハイラルに戻すんだ」
その言葉は、リンクくんならほんとうにそうしてくれると思わせるほど力強いものだった。
「がんばってね。わたしも、もっときれいなハイラルを見てみたい」
「ありがとう。そしたら、また一緒に空を飛んでくれる?」
「もちろん!」
リンクくんと一緒なら、きっと長老もわかってくれるよね。
それから、わたしたちはハイラルのお城と城下町などを見て回った。
お城はきれいで、町はたくさんの人でにぎわっていた。
リンクくんにところどころ説明してくれて、とても楽しかった。
時間が過ぎるのはあっという間で、見終わるころには日が暮れていた。
「未登録名前、本当にありがとう。楽しかったよ」
「わたしのほうこそ、色々教えてくれてありがとう」
わたしは笑おうと思ったけど、本当は悲しかった。
だってもう帰らなきゃいけないから。
次にリンクくんと会えるのはいつになるかわからない。
それを思うと、うまく笑えなかった。
リンクくんはわたしの表情に気づいたみたいで、
「そんな顔しないで。また会えるよ」
「……絶対、絶対だからね」
「うん。約束する」
その声はとても優しくて、わたしはちょっとだけ泣いた。
風の噂で。
魔人グフーは倒され、魔物が消えてハイラルに平和が戻ったと聞いた。
それと、もうひとつの噂も。
「……あ!リンクくん!」
「やあ未登録名前」
「そろそろかなって思ったよ。風の噂で、来るって聞いたときは驚いたけど」
「約束したからね。また会おうって」
信じてた。リンクくんなら、絶対に世界を救ってまた来てくれるって。
エゼロさんはピッコルの世界に戻ってしまっていないけど……。
「ハイラルが安全になったから、長老が地上に降りてもいいって!」
「よかった!じゃあ、早速行こうよ!」
「うん!」
わたしはまた、リンクくんの手を取って、地上に降りた。