「お前さん、もし自分が虎徹の真作だったとしたら、どうする?」
「……は? いきなり何を」
「ふと思ったのさ。もしお前さんが、近藤勇の言う通りの『虎徹』であったら、今頃お前さんはどのように在ったのだろうな、と」
「そう言われてもな……事実、おれは贋作だ。想像などできない」
「うっはっは、局長刀殿は真面目だなあ」
「誂わないでくれ」
「いやいや。元の主の逸話を背負った、良い刀だと思っているさ」
「…………おれは」
「うん?」
「おれは、仮に虎徹の真作であったとしても。何も変わらないと思う」
「ほう? その心は?」
「幕末の時代、新選組の局長近藤勇が持ち、共に池田屋で戦った――その事実は消えない。正しい歴史として在るからだ」
「……なるほど?」
「だから仮におれが真作であったとしても、このおれの在り方は何も変わらない。そう思う」
「……うっはっは! なるほどなぁ! 近藤勇の逸話を背負っているお前さんらしい回答だ」
「あのな……やはり誂っているのではないか?」
「そんなことはないさ。興味深い話が聞けたと思っている。感謝しよう」
「それなら、まぁいいが……」
「さて、そろそろ坊主が探しに来る頃かな。じじいは暇しよう」
「ん、そういえばあんた、馬当番――!」
「ではな! また話そう、長曽祢虎徹!」
「あ、おい待て!!」
(もしも近藤勇の刀が見つかり、それが真作であるならば)
(贋作だとして、それが源清麿の作刀ではないならば)
(存在そのものが揺らぎかねないほどの『正しい歴史』に直面した時、はてさて『彼』はどうなるかな?)