最初の歌
陽が落ち、レジスタンスとエッグマン軍の交戦は明日に持ち越しとなった。建物はすでに破壊し尽くされ、辺りは不気味なほど静まりかえっている。こちらの勝利は確定したようなものだとほくそ笑みながら、廃墟と化した街を歩いた。
そして違和感に気付く。
歌が聞こえる。かすかだが、聞き覚えのない声で、聞いたことのない歌が。
ロボットは歌など歌わない。とすればこれはレジスタンスか市街地の生き残りのもの。排除の対象に他ならない。
「明日ーこそーはー、目覚めーとー」
だが、なぜか。
「砂よー道標ーにー、なーにーゆーえー……」
辿り着くと、瓦礫の上で女が一人、歌っていた。悲しげな様子はない。楽しげですらあった。
「そこの、」
女はくるりとこちらを向く。驚いたように目を見開いている。
「びっくりしたぁ、今の聴いてた?」
「……ああ」
「いやーお恥ずかしい。ていうか近所迷惑?でも、場所がないしなぁ」
「なぜ、こんな所で歌など」
「え?なぜって、ここが好きだから」
女は、さも当然だというように答えてみせた。
「ここさ、私のお店なんだぁ。昼はカフェで夜はバーで。それなりに常連さんいて、時々ライブもやってね。対バンしたり、時々混じって歌ったりもしちゃって。ふふ、毎日楽しいんだぁ」
女の口ぶりはまるで、その光景を目の前にしているかのようだった。足元にあるのは砕けたレンガやガラス片、原型のわからない器物しかないというのに。
俺は、非戦闘員でも容赦はしない。この世界を恐怖で埋め尽くすと、あの日からそう決めた。それなのに、俺は、この女を。
「キミもいつか遊びにおいでよ。昼でも夜でも歓迎するよ」
「ここには、何もないだろう」
「今はね。でも、またすぐできるよ。誰かの思いがある限り、なくなるものなんてないよ」
一瞬、目が眩んだ気がした。仮面越しにもかかわらず、俺の脳裏には閃光が走り抜けた。
全て失ったと思っていた。俺にはこの赤い石しか残されてはいないと思っていた。その俺に、まだ何かあるというのか。あるとしたら、それは。
「だからさ、友だちたくさん引き連れておいでよ。そいでお店にお金落としてね」
「……」
「えっなにそのジト目。こっちだってタダでやってんじゃないのだよ」
「……馬鹿馬鹿しい。帰る」
「予約は三日前までにお願いよー」
「誰がするかッ!!」
夜空に星が瞬き始める。その小さな一つ一つが、やけに明るく感ぜられた。