生まれなかったうさぎ

「やあ、また会ったねりんく」

「やあ」

「こうしてまたきみと会えるなんて、夢にも思わなかったよ」

「ぼくもそう思うよ」

「さて、どうしてきみはここにきたんだい?」

「きみに言いたいことがあって」

「なあに?」

「ごめんね、って、言いたかった」

「それは、どっちの意味?」

「両方だよ」

「そっか」

「いまも、ときどき、思うんだ。もしも、って」

「でも、そのもしもはなかったんだよ」

「……うん」

「わたしはうさぎできみは人間だし」

「……うん」

「きみは現実だけどわたしは夢だよ」

「でも、」

「あらゆるものが生まれなかったんだよ。最初からなかったんだ。だから、きみが悔いる必要はどこにもないよ。後悔だって、本当はなかったんだから」

「それでもぼくは、きみに会いたかった」

「生まれなくても?」

「生まれてたよ」

「たとえばなにが?」

「きみが、ぼくをあいしてたって気持ちと、ぼくが、きみをすきって気持ち」

「ああ、そうかあ」

「だからね。もう一度あいたかったんだ。一度だけ」

「一度だけ。会ったね」

「もう、会えないね」

「そうだね」

「さよなら、未登録名前」

「さよなら、りんく」

その時ぼくは、板切れの上で目を覚まし、風をきって空を飛ぶ魚を見た。
そのはしで、カモメが遠く鳴いたの聞いて、どうしてうさぎは鳴かないんだろうなって思って、かすかに笑ったあとに少しだけ泣いた。