「豊前って、彼氏の擬人化とか言われてるらしーよ」
「んん?」
あらかた仕事も片付いた午後、つまり八つ時。今月の近侍である豊前とみっちゃんお手製のカスタードプリンをつつきながら、ふっと思い出したことを言ってみた。
「なん、いきなり。藪から棒すぎね?」
「こないだの演練場で会った審神者さんが言ってたんだよ。『豊前江は彼氏みたいな振る舞いが多い!』って。女子審神者の間では有名みたいよ」
「へー……」
豊前はさして興味なさそうにプリンを口に運んでいた。まあ、本刃にこんな話振られても困るか。別の話題を探しながら私もプリンを掬っていると、プリンを飲み込んだ豊前がスプーンを置いた。
「あんたは、どうなん?」
「んん?」
もぐもぐ、ごくり。
今度は私が首をかしげる番だった。
「俺のこと。彼氏みてーって思うわけ?」
文机に肘をついて顎をのせ、いたずらっぽく笑う豊前。
……確かにこれは。
「うん。彼氏っぽい」
「ほんとか!?」
「そういうの好きな女子は多いだろうねぇ」
がっくり。
そんな音がしそうな勢いで豊前は肘から崩れ落ちた。
「そーじゃねえよ!あんたはどうなんかって聞いてんの俺は!」
「どう、って言われても……私の好みって山伏さんとか祢々切丸さんだから参考にならないと思うよ……」
「……初耳っちゃ」
「まぁ、初めて言ったね」
「……マジかー……」
何故かダメージを受けたように、豊前は自身の額に手を当てている。そんな憂い顔ですらサマになっているのだから、やっぱり豊前江という刀は彼氏力高いんだろうな。私には分からないけれど。
なんてことを考えながら残りのプリンを咀嚼した。うん、今回のプリンもとても美味しかった。
「じゃあさ」
「うん?」
「俺が、山伏国広くれー鍛えたら、どうなん」
「はい?」
「あんぐらい鍛えたらあんたは俺んこと彼氏みてーって思ってくれるん?」
冗談、と、言いたかった。
しかし彼の目はマジもマジ、大真面目だった。
「……豊前、は」
「おう」
「えっとつまり……私と付き合いたい、とか、言ってたり、する?」
先ほどまでの余裕なんかもうどこにもなかった。私の顔はきっと豊前の目より真っ赤になっているに違いない。だって、今まで豊前がそんなふうに私を見てるなんて思いもよらなかった。
慌てふためく私に、豊前はにやりと口角をあげた。まるで形勢逆転だ。
「他のやつに近侍やらせたくねーくらいには、あんたのこと好きっちゃ」
あ、これはまずい。
本能的にそんな言葉が浮かんだのだが、当の私はすっかり豊前から目が逸らせなくなっていた。
「で、どうなん?鍛えたら意識してくれっか?」
「いや……それは分かんない」
「分からんのかい」