離れてやらない

「ねーリンク。いい加減離れてよー」

「んー……」

さっきからこうして、リンクがわたしの背中にひっついたまま離れようとしない。

「ね、もうそろそろご飯作らないといけないから」

「後でいいだろ」

「リンクー……」

何を言っても、動く気配がない。
わたしは困り果て、一体何があったのか聞いてみた。

「どうしたの?今日はやけに甘えてきて」

「……夢を、見たんだ」

こちらからは顔が見えないので、今どんな表情をしているのかわからない。
でもその声は、とても悲しそうで、寂しそうで。

「どんな夢?」

「未登録名前が、僕を置いてどこかへ行っちゃう夢」

ぎゅ、とわたしを抱く腕に力がこもった。

「どれだけ呼んでも、どんどん先へ行ってしまうんだ。僕は走るけど、全然おいつかなくて……」

「そっか」

わたしは、リンクの腕にそっと触れた。
自分よりずっと逞しい腕だけど、今はなんだか子供の腕のように思えた。

「ただの夢だよ。わたしは、ちゃんとここにいる。どこにも行かないよ」

「ほんとに?」

「うん。ほんとに」

「僕を置いていかない?」

「置いていかない」

「一緒にいてくれる?」

「ずっと一緒にいるよ」

「……よかった」

ふ、と腕の力が緩んだ。
わたしはリンクに向き直った。

「……なんて顔してるの」

「だって、」

まるで今にも泣きそうじゃないか。
わたしはちょっと噴出してしまった。これがハイラルの勇者なんて。
まぁ、中身はまだまだ子供ってことかな。

「まだ不安?」

「うん……」

「しょうがないなぁ。……目を閉じて」

「こう?」

リンクが素直に目を閉じたので、わたしはちゅ、と唇を重ねた。

「!?」

驚いて頬を紅潮させるリンクを見て、くすくすと笑った。

「さ、もう安心したでしょ。離れてくれない?」

「……」

「?」

そのとき、リンクが「大人」の笑みで、言ってのけた。

「まだ不安。もう一回してくれないと」

今度はリンクのほうから、唇がよせられた。