城下町に買い出しに行こうと思い平原を歩いていたとき、急に雨に降られた。
家を出たときは天気がよかったから傘は持っていなかった。
仕方ないから、手近な木のしたで雨宿りすることにした。
ざああ……
雨足はどんどん強くなる。
これじゃいつ帰れるか分からないなあ。
「……っくしゅん!」
ここに来るまでに結構濡れてしまったので、ぶるっと身震いした。
ハンカチじゃ拭えないな。タオルがないと……そのためには家に戻らないといけない。
その時、背にしていた木の反対側から声がした。
「大丈夫?」
「あ、どなたかいらっしゃったんですか……って」
こちらを覗きこんでいたのは、絶賛喧嘩中の恋人、リンクだった。
リンクもわたしとは思わなかったらしく驚いていたが、すぐに眉間にしわを寄せた。
「その、いかにも『なんだお前か』って声やめろよ」
「……なんだリンクか」
「お前ね……」
リンクは、はあとため息をついた。
なにさ、ため息つきたいのはこっちのほうだ。顔見たくなかったのに。
喧嘩の原因は些細なこと。
リンクがファドさんと一緒に酒場まで行った。これは、まあ別にいい。
問題は、リンクが出かける前に「なるべく早く帰る」と言ったのに、深夜、いやもう午前か。そのくらいの時間に帰ってきたことだ。
すごく、すごく心配した。なにかあったんじゃないかって、魔物に襲われたりしたんじゃないかって。
一応、謝ってはくれた。けどそれくらいじゃわたしの怒りは収まらない。
それ以来、口を利いていない。かれこれ三日ほど前のことだ。
一緒に住んでいないのが幸いだった。その予定はあったけど、当然延期だ。
わたしの怒りが収まるまでリンクの顔は見ない。話さない。
なのに……。
「未登録名前、悪かったって」
「本当に悪いと思ってるの?」
「それは……もちろん思ってる」
「なにその間は」
わたしは木を背にしながら、後ろに声を送る。
リンクはこちらを見ているようだけど、わたしが近づくなオーラを放っているので隣に行こうとも行けないのだろう。ざまあみさらせ。
「だって、未登録名前も心配しすぎなんじゃないか。酒場に行ったからにはそれなりに遅くなるって」
「早く帰るって言ってたじゃないなにそれ」
「なるべく、って言ったはずだぞ。もうちょっと信用してくれよ」
「やだ」
「未登録名前ー……」
がしがし、と頭をかく音が聞こえた。
さぞかしいらだっていることでしょう。わたしの分まで悩みなさい。
「未登録名前、未登録名前ってば」
「……」
「返事もしてくれないのか……」
「……」
「どうしたら許してくれる?」
「……わたしがいいって言うまで」
「当分ダメってことじゃないか……」
リンクのため息が聞こえた。
「あのな、遅くなったのは理由があるんだ」
「……」
「ファドが飲みすぎて、吐いちゃってさ。ずっと介抱してたんだよ」
え、なにそれ。聞いてない。
当たり前だ。わたしが聞こうとしなかったんだから。
この時点で、わたしの怒りなんてとうにどこかへいってしまっていて、ちゃんと話を聞いてあげなかった申し訳なさでいっぱいになった。
けどずっと顔も合わせなかったから、どんな顔して謝ればいいのか、分からなくなっていた。
「未登録名前、まだ怒ってるのか?」
「……」
「雨、あがってきたぞ」
気づかれないようにちらっと見上げると、今だ曇天だけれど雨はやんでいた。
反応のないわたしに、リンクは困ったように、
「先に、帰るからな」
「……!」
今、ここでわかれたら。
きっとまた謝るタイミングを逃してしまう。
そう思って、急いで振り返って、
「やっと顔みせてくれた」
したり顔のリンクがそこにいた。
帰るつもりはなかったらしい。
「ず、ずるいじゃない!……っわ」
わたしの抗議は、リンクからの抱擁でかきけされた。
それから。
「ほんと、ごめんな」
あやすような優しい声。
そんな、そんな声出されたら。
「……いいよ」
そう言うしかないじゃない。
空はすっかり晴れて、雲の隙間から太陽がのぞきこんでいた。
(雨宿りもたまにはいい)