耳のそばで、かたりと音がした。
「……あ、起こしちゃった?ごめんね」
顔を上げれば、困った顔をしながら窓を閉める未登録名前がいた。いつの間にか日はすっかり落ちて、薄暗い部屋の中は冷たい夜風が満ちている。どうやらソファで眠ってしまっていたらしい。
未登録名前とはいえ、誰かが入ってくるまで気づかず寝こけているとは。僕も随分と甘くなったものだ。
「仕事終わってずっと寝てたんじゃない?夕飯作るからさ、一緒に食べようよ」
寝起きのぼんやりした目で未登録名前を追う。てきぱきとカーテンを閉めてテーブルを片付けた未登録名前は、すっかり慣れた手つきだ。まるでもう僕の家に住んでいるような――そこまで考えて首を振る。
未登録名前とは『まだ』そういう関係ではない。そういう関係になるためには、僕は。
まだ、彼女に、言えない。
「……シャドウ?」
なかなか僕が返事をしないので、未登録名前がこちらを振り返る。僕は彼女の腕を掴んで引き寄せそのままソファにもつれこんだ。
未登録名前は、どうしたの、とも、何するの、とも、言わなかった。だが、言わなくても分かる、といった年月の仲でもない。
わからないから、黙っている。僕の言葉を、待っている。
辺りを包む静寂は、急かすようでも呆れるようでもなく、ただ、そこに『ある』だけだった。
「……未登録名前」
静寂に終わりがあるように。
この生温い関係も、終わりがある。
僕は、腕の中で僕を見上げる未登録名前に言う。
「愛してる。ずっと」
未登録名前は大きく目を見開いて、何度か瞬かせたあと、まるで花びらが舞うような微笑みを見せてくれた。