薄赤い太陽が、その姿を街並み際に寄せて沈みつつある冬空。
私は白い息をつきながら、コンビニに向かっていた。特に何か理由があったわけじゃないが、下校中、このまま家に帰るのはなんとなく勿体無い気がしたので、思いつきでただ寄ってみた。
横断歩道を渡りきると、ぴゅうと一陣風が吹く。思わず足を止めて肩をすくめた。マフラーをしていても、風がふけばやはり寒い。
風で乱れた髪を少し直しているあいだ、なにとはなしに周りを見ると、コンビニの狭い駐車場の片隅に、見知らぬ男の子がいるのに気づいた。濃紺のダッフルコートのポケットに両手をいれて、空を見上げている。その横顔は、長い前髪に隠れてよく見えなかった。
誰かを待っているのだろう、とその時の私はさして気にもとめずコンビニに入っていったのだが、15分くらい経って私が出てきても、その男の子はまだそこにいた。さすがに気になった私は、思い切って声をかけてみることにした。
「こんばんは」
男の子は空を見るのをやめて私のほうを向いた。寒さで冷えたのか、鼻がすこし赤い。
「こんばんは★」
白い歯を見せて笑った彼に、私は問いかける。
「なに、してるの?」
「う~ん……なにかしてる、ってわけじゃ、ないんだけど★」
不思議なしゃべり方をするひとだな、と思った。そんなしゃべり方をするひとだからか、話す内容も不思議だった。
「ただ、な~んとなく、いつも降りる駅を通りすぎてみた★」
「それだけ?」
「それだけ★」
不思議だけれど、どこか私と似ている。私も、ただなんとなくでコンビニに立ち寄り、なんとなく彼に話しかけている。
「通り過ぎた、ってことは、君はここらのひとじゃないんだね」
「うん★でも、いくつ通り過ぎたか、忘れてしまったんだ★」
そんなこと駅で案内板をみれば、とは、言えなかった。
彼が言いたいのはそういうことじゃないんだと、私には分かった。
なぜ分かったのだろう。会ってまだ数分しか経っていないし、表情だって長い前髪でろくに見えない。しゃべり方も、しゃべる内容も不思議そのものなのに。
「じゃあ、」
けれど私には分かるのだ。彼が今なにを思っているのか、なんとなくだけれど私には分かる。
「思い出すまで、話でもしようよ」
一瞬、彼の笑みが消え、
「それは……名案★」
またすぐ、今度は歯を見せず口角を上げて笑った。
そのとき太陽が空の向こうに消えて、夕方は夜になり、いっそう冷たくなった風が一陣、吹いた。
(寒空の下のキミはまるで)