ふつかめ

フィローネの森に入った俺とモイさんは、二手に分かれて未登録名前の手がかりを探した。
魔物が出るかもしれないので、剣と盾は持ってきた。モイさんもだ。
俺は泉があるほうへ行った。未登録名前はここに来ると言っていたらしいが、あたりをくまなく見て回ってもそれらしい跡はない。一週間も経てば当たり前かもしれないが。
ここは諦めて、モイさんと合流して森の奥を探したほうがいいかもしれない。
そう思った俺は泉に背を向けて、

ばしゃん!

なにかが泉に落ちた。それも大きなもの。
魔物か?俺は背中の剣を抜いて振り返った。
しかし泉にいたのは魔物ではなかった。
人の形をしている。特に怪しい気配はない。
剣をおさめて、近寄った。

「未登録名前!?」

仰向けに泉に浮かぶ、その姿。
間違いなく未登録名前だった。
着ている服に見覚えはないが……というか、こんな形の服、見たことがない。
それに、どこから落ちてきたんだろう。木の上にいた?確かにそこまでは見ていなかったが。
でもとにかく、未登録名前が生きていた。それだけで十分だ。
声をかけてゆすってみても、起きる気配はない。落ちたときに頭を打ったかもしれない。それならあまり動かさないほうがいいだろう。
俺は未登録名前を横抱きに抱えて泉のほとりに寝かせ、モイさんを呼びに行った。
モイさんに未登録名前が見つかったことを話すと、とても驚いていたが嬉しそうだった。

すぐに未登録名前の家に彼女を寝かしつけた。服は濡れてしまったので、セーラさんに頼んで着替えさせてもらった。
ハンジョーさんは未登録名前の服を見て「こんなの、仕入先でも見たことないよ」と唸っていた。
そのうち村の人たちが集まってきたが、体に障るとよくないからと遠慮してもらって、未登録名前の部屋にいるのは俺だけだ。

(……少し、やせたかな)

久しぶりに見る未登録名前。嬉しい再会のはずなのに、なぜか心が晴れない。
未登録名前は今までどこにいて、何をしていたのだろう。
どこから落ちてきて、服はどうしたんだろう。
たくさんの疑問が浮かんで、俺の頭を占拠する。
とりあえず、今は未登録名前が起きるのを待とう。話はそれからだ。

「う、ん……」

未登録名前が身をよじって、それから、目を開けた。

「リン、ク……?」

彼女に名前を呼んでもらうのは久しぶりだ。
俺は笑顔になる。

「そうだよ。久しぶり」

未登録名前は何度か目を瞬いて、ゆっくり起き上がった。
そして辺りを見回して、

「あ、ああ」

「未登録名前?」

「う、う、あああ!」

両手で顔を覆って、声を上げて泣きはじめた。
俺はどうしていいか分からず、未登録名前を見ていることしかできなかった。
泣き声に気づいたみんながやってきて、未登録名前を落ち着かせるために女性陣が部屋に残りあとは追い出されてしまった。
どうして未登録名前は、村に帰ってきたのに泣いたのか。
よほど怖い目にでもあったのだろうか。
多分、そうじゃない。
俺は聞いてしまったんだ。
未登録名前の泣く声の間から、「――さんはどこ」という、聞きなれない音の誰かの名前が出てきたのを。

そしてそれはきっと、男性。

かあっと全身が熱くなった。
知らず歯噛みしていた。
未登録名前が、俺の知らない誰かを求めてる。
知らない間に誰かと仲良くなって。
別れたから泣いてる。
そう思うと、頭がまっしろになって、どうにもいられなくなって、ぎゅっと握りこぶしを作って、叫びたいきもちになって。

その時未登録名前の家からウーリさんが出てきて、みんなに説明を始めた。