その子と会ったのは、村からほど近い森の中だった。
わたしは川に水を汲みにきていて、その子は顔を洗っていた。緑色の帽子と服を着ていて、まるで森の一部のようになじんでいて。
木々の間から差し込む太陽の光が、その子の金髪をてらして、きらきら輝いていたのが印象的だった。
「きみ、だれ?」
わたしは見たことない少年に、少し驚いていたと思う。
少年は振り返り(青い瞳が、きれいだなあ)にこっと笑った。
「こんにちは。僕はリンクっていうんだ」
「あ、わたし、未登録名前」
「水を汲みにきたの?場所とっちゃってごめんね」
わたしの持つ桶を見て、少年、リンクくんがその場をどいた。わたしは首を横に振って、「大丈夫」と返した。
それにしても、不思議な子だなあ。歳はわたしと変わらないと思うけど、背中に剣と盾を背負っている。旅、してるのかな。
見たことのない少年に、わたしは興味が湧いた。
「ねえ、よかったらすこしお話しない?」
勇気を出して、聞いてみた。リンクくんはちょっとだけ驚いた様子で、でもすぐに「いいよ」と言ってくれた。
わたしたちは川べりに隣同士座りあう。
「リンクくんって、旅、してるの?」
「そうだよ」
「魔物とか、こわくないの?」
「うーん、最初は怖かったけど、慣れたかな」
「すごーい!」
「はは、そうかな」
「すごいよ、そうぞうできないせかいってやつだね」
「難しい言葉を知ってるね」
「わたし、本をよくよむから」
「本かあ。僕はあんまり読んでないな」
「旅してるんでしょ?だったらしょうがないよ。……そうだ、明日もまたここにきてよ!おすすめの本、もってくるから」
「いいの?いつ、返せるかわからないよ」
「わたしはもう何回もよみかえしたからいいの!」
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
「うん!じゃあ、わたしそろそろ行かなきゃいけないから。またねリンクくん!」
「またね、未登録名前」
わたしは水を汲んで、リンクくんに手を振ってからその場を後にした。
翌日。わたしは同じ時間に本を持って森へ行ったけれど。
リンクくんは夕方になっても夜になっても、来ることはなかった。
(……あれからもう、7年か)
古くなった本の表紙を撫でて、わたしはため息を付いた。
どうしてリンクくんはこなかったんだろう、とたまに思い返す。
旅をしてる子だったから、なにかあったんだろうかと心配もした。
しんでしまったんだろうか、なんて、よくないことも考えた。
忘れたほうがいいとは思ったけど。
あの子の金髪が、青い瞳が、どうしても忘れられなくて。
渡すはずだった本を読み返しては、あの時のことを思い出す。
こんこん
ドアをノックする音が聞こえたので、わたしは思い出に浸るのをやめて玄関に向かった。
「はーい……?」
そこには、見たことのない青年が立っていた。
「君は、未登録名前、だよね」
「え、そ、そうですけど……」
おずおずと言うと、青年は困ったような表情をして、
「やっぱり忘れちゃったかな」
忘れたって、なにを?
……待って。
この青年に、見覚えは?
ないはずだけど、でもなにか忘れてる。確かに。
緑の服に緑の帽子。青い瞳に金色の髪。
え、ま、まさ、か。
「もしかして、リンクくん……!?」
「久しぶりだね、未登録名前」
うそっ!どうして!
どうしてリンクくんがここにいるの!?
わたしは目の前の事実が受け入れられず、目を見開いたまま口をぱくぱくさせていた。
「随分探したよ。どこに住んでるか、聞くの忘れてたから。でも見つかってよかった」
彼は、にこっと微笑んだ。あの頃とは少し違う、大人びた笑み。
「約束、破ってごめんね」
「……ううん、いいの」
リンクくんが、生きてた。
約束を覚えていてくれた。
嬉しくて、涙がでそうになった。
けどまた会えたから。
わたしはリンクくんに負けない笑顔を見せる。
「ずっと待ってたよ。また会えてよかった」
「僕も。覚えててくれてありがとう」
そうして果たされる約束は
なによりの強さを与えてくれる
Title:ZABADAK