infinity

 夕暮れ。壊れた街。ロボットの残骸。
 そこにうずくまる一つの黒い影。私はそこに、影を足す。

「負けちゃったね」

 黒い影、インフィニットは何も言わない。ぴくりとも動かないので少し不安になって視線を向けるが、肩が上下していたので安堵し、また視線を夕暮れに向けた。太陽は空を真っ赤に染めながら、海の向こうに姿を隠していく。

「正直さ、ホッとしてるんだ」

 息を呑むような音がした。

「今回の計画は、すっごく大掛かりだったよね。被害も損害もたくさん出て、あとちょっとで世界征服もできた。だけど、」

 私は、ぎゅうと目を閉じる。脳裏に浮かぶのは、恐怖に怯える人の顔、都市を爆撃する数多の戦艦、街を破壊するロボット、そして――メタルをはじめ、見知った姿形で攻撃するファントムルビー。

「なんかね、上手く言えないけど、違うなって思ったの。ドクターが目指してる世界って、もっと楽しいものだと思ったから」

「……悪党に、楽しいもクソもあるか」

 やっと喋ったインフィニットに、私はにこりと微笑みかけた。

「君はまだ分かんないかもしれない。ドクター・エッグマンってね、ただの悪党じゃないんだよ」

「……貴様は、この軍の中では常識人だと思っていたがな」

「そう?ここにいたら、常識なんて簡単に覆っちゃうよ」

 うなだれていたインフィニットは、そこで初めて顔を上げた。真っ直ぐに前を見つめ、海の向こうに沈む太陽が仮面を鈍く反射させる。きらきらと、光が溢れた。

「面白い。ならば貴様の常識とやら、見せてもらおうか」

「うん」

 さて、どんな話をしようか。これから夜がやって来ても、きっと朝まで楽しくなること間違いなしだ。