Respawn

たかがゲームで泣くなんて、ばかみたいだと思われるかもしれないけれど、わたしは『時の勇者』がかわいそうで仕方なくて、画面のまえでぼろぼろ泣いてしまった。
今まで頑張ってきた冒険のすべてがなかったことになって、一生懸命助けたゼルダ姫との出会いも最初からやり直しだなんて。
こんなのってあんまりじゃないか。いくら世界を再生させるためだからって、勇者の、リンクの気持ちはどうなっちゃうの。
もしわたしがこの場にいたなら、そんなのありえないけど、もしいたらリンクのこと思いっきり抱きしめて、今までよく頑張ったねって言ってあげられるのに。
リンクの旅を最初から最後まで全部知ってるの、わたしだけなんだから。
ゲームのプレイヤーであるわたしだけ。

わたし。

「……未登録名前?」

呼ばれて目を覚ますと、リンクがわたしの顔を覗き込んでいた。

「いつもより遅かったから、起こしに来たんだけど」

「あ、そうなんだ。ありがと」

上体を起こして、ぐっと伸びをした。
いつもより多めに寝たせいか、頭がぼんやりしている。少し外で体操でもしてこようかな、とベッドから降りようとすると、リンクがなぜか不安そうな顔をしていた。

「リンク?どうかした?」

「えっと……」

言いにくそうにリンクは視線を落として、

「寝ているとき、未登録名前が泣いてたから。なにか悲しい夢でもみたのかって思って」

そう言えば、頬が濡れている気がする。でも、夢をみた覚えがない。

「大丈夫だよ。多分、リンクの旅の夢をみてたんだよ」

「僕が時の勇者だったときの?……不思議だよね。誰も覚えてないはずの旅なのに、未登録名前は全部知ってるんだから」

知っている、というよりは、目の前でみたように頭の中に映像が残っているから更に不思議だ。
いつの頃からあるこの不思議な記憶は、リンクと初めて出会ったときに呼び起こされた。初対面だというのにわたしはぼろぼろ泣いてしまって、リンクを困らせてしまったのを覚えている。

「でも嬉しかったよ。未登録名前だけが、僕のことを覚えていてくれた」

「だから好きになった?」

「それだけじゃないよ」

ちょっとむっとして言うあたり、リンクの子供っぽさが見えて、わたしはくすくす笑ってしまった。

「ごめん、分かってるよ。わたしも、リンクの旅を知ってるから好きってだけじゃないし」

もちろんそれも大きな要素ではあるけれど。
わたしが彼を好きになった理由は、他にもたくさんある。

「そだ。リンク、朝ごはんたべた?」

「あ、まだ」

「じゃあちゃちゃっと着替えて作るから、一緒に食べよう」

「うん!」

そしてこれからも増えていく。だってわたしたちは、一緒に暮らしているのだから。