Shadow

 先日からドクターの新しい計画が始まり、手始めにと新しい仲間を増やしたはいいものの……コレがどーーにも慣れないのであった。

「あっシャドウ、おは」

「……」

 今日もスルーされました。

「別に仲良くなる必要はないんじゃない?」

 私の愚痴にスパっと返したのは、もう一人の新しい仲間、ルージュさんだ。どんよりしながら基地の防衛システムをメンテナンスしていたら、通りがかりに「なによ辛気臭い」とこれまたスッパリ言われたものだからつい愚痴ってしまったのである。でもちゃんと聞いて返事してくれるルージュさんはいい人だ。泥ぼ……いやトレジャーハンターだけど。

「そうなんだけど、一緒に行動してるからにはもうちょっと話しやすくなりたいなって」

「計画を円滑に進めるため?」

「なんかドクターみたいなセリフ……まーそれもあるし、あとね」

 浮かび上がるのは、かつての光景。
 ソニックに勝つことのみを考える彼。初めて見たときは怖いとさえ感じた。だけど、関わっていくうちに少しずつ覗かせてくれる一面は、とても暖かなものだった。

「私はシャドウのこと知りたいんだ」

 ルージュさんは一瞬黙ったあと、ふっと息をついて笑った。

「アンタ、全然悪役っぽくないわね」

「あっそうか。私も一応悪役だった」

「アハハ!アンタ面白いわね。いいわ、気に入ったから応援したげる」

「面白いというのは不本意だけどありがとう!」

 ルージュさんに元気付けられ、やる気が出た私は急いで作業を終えてシャドウを探しに行った。まずドクターの部屋行ってみたが、ドクターも彼の行動が予測できないらしい。ルージュさん曰く一匹オオカミ的だから(ハリネズミだけど)、この分では誰も行き先を知らなさそうだ。いきりない頓挫したぞおい。

 そうこうしている間に日課である空中庭園の手入れ時間になってしまった。今日は諦めて、明日また考えようかなあなんて歩いていくと、庭園には、すっかり見慣れた人影があった。

「メタル!こんにちは」

 水やりをしていたメタルがこちらを向く。片手を少し上げてみせたので、私も嬉しくなりつつそれに倣った。
 初めはぎこちなかった彼の態度も、今ではすっかり穏やかだ。シャドウも、ここまでとはいかなくてももう少し話が出来るようになりたいな。

「……ああ、ごめん。ちょっと考えごと」

 メタルが不思議そうに顔を覗き込んでいたので、慌てて手を振った。すると彼はじっと私の目を見つめる。おそらく、話してみろということなんだろうか。

「えーっと、シャドウのことなんだけどね。もうちょい仲良くできないかなーって……ってなんか近くない?」

 なぜかどんどん詰め寄られ、思わずたじろいでしまう。まだ時々メタルのこと分からないんだよなあ……。
 困った私は、とりあえずメタルの頭を撫でてみる。するとメタルはぴたりと動きを止めた。

「メタルと仲良くなれたみたいにさ、シャドウとも仲良くできたら、この基地ももっと楽しくなりそうだなって思ってさ」

 メタルはしばらく硬直していたが、やがて私から離れ、周囲をぐるりと見渡してから、私をぴっと指差した。
 この行動は、私にも分かる。メタルが言いたいこと。

「……そだね。ありがとう、私もうちょっと頑張ってみる」

 メタルはこくりと頷いてくれた。

「シャドウ」

 翌日朝、運良く基地内で出会えた私はシャドウの背中を呼び止める。当然足を止めてくれるわけがないので、小走りで近づき前に回り込む。
 すると、シャドウは一瞬だけ眼を見開いた。本当に一瞬だが。

「一本いかが?」

 そこへ、空中庭園で摘んだ花を一本、シャドウに差し出した。真紅のガーベラは、きっと彼に似合うと思ったから。
 シャドウはじっとガーベラを見つめていたが、やがて私の横を通り抜ける。ああ、やっぱりダメだったかな。でもちょっとだけ表情を変えてくれたのは一歩かな、なんて思っていたら、背後から声がする。

「花は、切れば死ぬ」

 驚きすぎて振り返るのを忘れた。

「土に植わっていてこそだと、聞いたことがある」

 そこでようやく振り返ることが出来たが、すでにシャドウの姿はなかった。彼もまたソニックと同じくらい素早いらしい。また一つシャドウを知ることができた嬉しさと、二言以上続いた会話を噛み締めながら、私はガーベラを飾りに自室へ歩き出した。
 それにしても、シャドウのあの言葉は一体誰から聞いたものなのだろう。知らないはずなのに、なぜか私には、とても近しい人のように感じていた。

(確かに花は根を下ろしていてこそだけど、切った花にも意味はあるよ)
(遠い誰かに、届けるためだとかね)