Three
月夜の晩だった。僕は女に銃口を向けていた。
「やめて……!殺さないでえ!お願いだからあ!」
人を殺すことに躊躇いはない。
……そのはずだった。
僕は、ぎり、と奥歯を噛んだ。
目の前で懇願する女が鬱陶しくて仕方がない。なのに、引き金を引く指が、一瞬だけ迷った。
それが命取りだった。
「……死ねぇ!」
「……!」
女が一転、袖に隠していたと思われるナイフを突き出した。
対応が遅れた僕は、そのまま、
「あ、起きた」
何度かまばたきをして、はっきりしない視界を無理やり正してから、僕はこれが悪夢だと悟った。
それか死んで地獄に落ちたか。でなければ、いつぞやの、あの女と同じ顔をした女が僕の目の前にいるはずがない。
現実でそんなことが起こってたまるか。
「大丈夫?」
ああ声まで同じとは本当にタチの悪い夢だ。
僕は悪態のひとつでもついてやろうと声を出そうとするが、刺されたわき腹の痛みでうめき声しかあげられなかった。
「だめよ、動いちゃ。応急手当はしたけど、まだ血がでてるし」
今救急車を呼ぶから、と携帯電話を取り出した女を、僕は手で制し首を振った。女は驚いて、目を見張っている。
僕の存在は表立ってはいけない。それに、この程度の傷、どうということはない。
そこまで行動してから、これが現実であることを理解した。
どうにも信じがたいが、僕はあの時、完全にあの女を殺した。女の死体がどうなったかは知らないが、秘密裏に処理されたと聞いている。
では目の前にいるこいつは?僕を惑わすための罠か。
「貴様、は……何者だ」
女は僕をじっと見つめてから、微かに笑ってこう言った。
「初めて。声、聞いたわ。いい声してるのねあなた」
やっぱり悪夢かなにかじゃないのか。